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長井好弘さんに、訊いてみた。Vol.3「長井さん、講談界、そして「神田松之丞」に期待していることは?」

長井好弘(写真右)ながい よしひろ

1955年生まれ、東京都江東区出身。読売新聞記者。都民寄席実行委員、浅草芸能大賞専門審査員。落語、講談、浪曲はじめ諸演芸に関する著書、編著多数。

【Twitter】http://twitter.com/tasukevic

Vol.1「長井さん、寄席演芸界にかかわるきっかけはなんでしたか?」

Vol.2「長井さん、リアルタイムで見た東京寄席演芸界の全盛期とは?」

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松之丞(以下、松):講談に関していうと、そのころ観てたんですか?

長井好弘(以下、長):全く。

:全く観てない。

:ていうか、本牧亭(注:Vol.2参照)に、何回かぐらいだね。行くと、ひとが入ってない。

:あ、本牧行くんですか、いちおう。

:本牧は行ったよ。なんで知ったかっていうと、本牧で若手の落語会とかやってるから(注:Vol.2参照)。「ここ講談もやってるんじゃん」とか思って、行ったことがあるんだけど、何回か。

:へー。

:ジロッとおじさんに睨まれたりとか。すっごくイヤな雰囲気で。講談聴く以前の問題で、ここ空気悪すぎ。

:(笑)

:ここ、学生が来るとこじゃない、来るな、っていう空気があるわけ。だから、本牧で講談を聴いたのって、ほんとに数回。久しぶりに行って、「あーダメだこりゃ」。また久しぶりに行って「ダメだこりゃ」。

:(笑)マニアに殺されるわけですね、新規が。

:それほど好きじゃなかったんだろうね、おそらく。でも、本牧亭の雰囲気はすごく好きなんで。後ろに売店があって、お茶子(注:寄席のスタッフの女性のこと)がなんか売りにきて、とかね。そういう古い本牧亭。

:何人ぐらいいました、当時の本牧。つばなれ(注:十人以上入ること)してたんですか? オール座敷ですよね。

:つばなれはしてたと思うんだけど。僕が行ったときに関して言えば。だけど、オール座敷ったって、真ん中誰もいないからね。

:ようするに、"角"をみんな取るわけですよね、オセロゲームみたいに(笑)

:そう。"角"取られちゃってるから、もう入った時点で、俺たち負けてるんだよね。

:(笑)どこ座るんですか?

:真ん中の後ろの方。しょうがないじゃん、だって、そこしかないんだから(笑)。両脇いるんだもん。

:寝てるやつとかいたんですか? 新聞紙とか、嫌がらせで、こう、見てるやつとかもいなかったですか?

:もちろん寝そべってるひとはいたけど、本当に寝てるひとはいなかった。新聞見てるひとはいたよ。

:新聞見てるやついたんですか(笑)。

:いたよ。あの人数で、新聞見てるのすげえな、って思うけどね。

:(笑)講談にはそんなに興味ひかれず。浪曲とかどうでした?

:浪曲は、"ろ"の字もないね。

:"ろ"の字もない。

:どこでやってるかも知らなかったと思う。僕らの時代の東京の下町だと、本当に申し訳ないけど、浪曲は...。

:そうかー。当時はそういう空気なのか。

:うん。だから、浪曲聴きに行く、って言うと、変って感じがあるんだよ。実際観たら、「そうでもないじゃん」と思うんだけど。

:そっか。そこは、講釈の方がいい、っていう価値観があったんですね。

:講釈は、むしろ寄席よりちゃんとしたものだから、敷居が高いんだよ。敷居が高いのは、僕がはじめっから「講釈だから」みたいな感じになっちゃうから、敷居が高くなってるんだと思う。

:いやー、うぶっていうか、純粋にそれを。

:べつに先生とか、仲間もいなければ、落研でもなければ、で、ただ寄席だけ観て育ったら、そうなるでしょ。

:我流なんですね。

:まったくの我流だよ。僕はね、講談を意識して観だしたのは、神田松鯉(注:松之丞の師匠)です。

:あ、ほんとですか! うれしい〜なぜか。

:神田松鯉になった襲名披露からです(注:1992年)。

:(神田)小山陽からの松鯉。えー、面白い。いい話だなあ!

:それ、個人的にいい話だからだろう(笑)。そのまえにも、ポツンポツンとは観ていましたけれども、神田松鯉ができたときからが、ちゃんと観てると思う。ちゃんと観てる、っていうのは変だけど、「観よう」と思って観てる。で、あとは小金井芦州(1926〜2003)です。

:あ、芦州先生。

:芦州先生の晩年は、もうしっかり観てます。わけ分かんない新作とか。「快男児」とか、なにこれ? って思いながら。やっぱり、あの切れ味がたまんなくて。

:松鯉に戻していいですか。松鯉は、なにが引っかかったんですか。うちの師匠は、なにがいいと思ったんですか?

:こんなにガンガンくる講釈は、はじめて聴いた。

:あー、押しが強かったってことですか。

:そうそう。あの声と。

:へー。うちの師匠って、そのころってどんな感じだったんですか、そんな押しがあったんですか。

:いまより声はでかかったね。わりと、馬力でガンガンくる感じがしましたね。繊細な芸には見えなかったけどね。あのパワーに負けた、っていうかね、「これは観なきゃ」と思ったね。

:はえー。うちの師匠から、観なきゃと思って。

:あっちの協会(注:講談協会)は芦州先生中心。こっち(注:日本講談協会)は松鯉先生が出るとき。

:芦州先生とうちの師匠の松鯉を中心に観てた、っていう。

:山陽先生(注:二代目。1909〜2000。松鯉の師匠)は、寄席では観た記憶があるんだけど、そんなに面白いと思った記憶がないんだよね。やっぱり晩年だったせいかね。

:寄席の流れのなかで。

:軽い、って思った。軽くておもしろ講談なんだろうけど、うーん、ピンとこないなって。このひとは、これが本当じゃないんじゃないだろうな、って思ったけど、本当の高座を観ないまま終わっちゃったのね。

:うちの師匠のネタとか、特になにとか覚えてます?

:「水戸黄門(記)」のどこだったかな、松鯉先生の。池之端本牧亭(注:1992〜2002年の間、本牧亭は池之端にあったことから)にちょっと遅れて行ったら、コの字型に客がいてさ。真ん中しかないんだよね、空いてるところ。で四十分間、松鯉先生と相対稽古みたいな状態になって。

:(笑)そのとき、「水戸黄門記」確か連続でやってたんじゃないですかね。

:もうね、ほとんど連続だから、意地でもやってたでしょ、あのころは。

:そうですね。

:何回通っても、終わらねえんだ、これが(笑)。

:(笑)

:「先生、もうそろそろ終わりましょうよ」って言ったら、「まだ終わらないよ」って。

:いやー、そうか。面白いな。講釈の魅力って、長井さんから見て、どんな感じなんですか。

:物語ですよ。講釈師よりも、物語だよね。

:物語。

:物語。こんだけ豊かな物語を、語り継いでいってくれるこのひとたちは偉い! と思うね。

:なるほど。

:もちろん、新作講談もあってもいいし、どんどん増やしてもらうべきだと思うんだけど、松鯉先生みたいなひとがいなかったら、なくなっちゃってるものもあるわけだから。

:いっぱいありますね。

:そういう意味では、こんなに面白いものも、こんなしょうもないものも、こんな歴史的なものも含めて、バトンタッチしてくれてるものはすごいと思うし、講釈師は大事にせなあかんな、っていうのは思いますね。


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:(笑)いま、長井さん的には、(神田)阿久鯉姉さんが出てきて、うちの師匠のネタを継承するひとが出るっていう、いい流れというか。

:悪いけど、阿久鯉以下の一門のひとは無条件に好きだよね。

:それは伝わりますよ。おじいさんのかんじの目線を感じるときありますもん。

:(笑)そんなに慈悲あふれてる?

:慈悲あふれて。松鯉の門下だから、無条件に好きみたいな。

:そうそう、(神田)みのりまで好きだもんね。

:あ、みのりも好きそうですよね。そうか。(神田)山裕先生(1954〜2015。二代目山陽門下)に対してとかって、なにか覚えてます?

:山裕先生、大好きでしたね。本牧講談五人会だよね、当然。五人会での「曽我物語」がすごく印象深いなあ。

:やってましたね。

:面白くないんだけど、聴いちゃうんだよ。

:(笑)

:「曽我物語」なんて面白いわけないじゃん、あんなもの。

:大師匠(注:二代目山陽のこと)が、死ぬほど長い曽我物語を三十分にまとめたんですよね、数十話もあるやつを(笑)。それを弟子に伝えたという。あ、そうですか。

:山裕先生が出なくなっちゃったら行かなくなっちゃったもんね(注:1998年に脳内出血で倒れて以降、高座復帰はかなわなかった)。ほぼ同年代っていうこともあるんだけど。同じような年代のひと、観たいと思うじゃないですか。落語家だといないんだよね、あんまり。

:いまの長井さんと同じくらい。

:同い年だと、(宝井)琴調先生(注:講談師)しかいない。

:琴調先生と同い年なんですか。

:同い年。琴調先生。あと、あっちが学年ひとつ上だけど、同じ昭和三十年生まれってことだと、(春風亭)小朝さん。あと山裕先生もほとんど同じだよね、ひとつ上ぐらいかな。だから、そのへんは意識して観ちゃう。小朝さんなんか、二十三、四で出はじめて、ガンガンきてたじゃないですか。わたしがサツ回り(注:Vol.1参照)で栃木県の山のなかをかけずりまわってるときに。

:(笑)

:あのとき、小朝さんは心の支えだったもんね。

:あー。同年代として。

:同年代で、こんなに輝いてるやつがいるんだから、輝かないまでも、もうちょっとなんとかなりたい、と思った。

:長井さん、もうそろそろ終わりますけど、毎回みなさんに聴いてるんですけど、僕に対してどんな評価をしてますか? これもう忌憚なく。

:んー、講談の国本武春(注:浪曲師。1960〜2015)になってほしい。

:はー。なるほど。

:なんでもやってもらってもいいけれども、それがすべて講談に結びつくようなかたちで、講談の裾野を広げてほしいね。講談の場合は人数少ないから、表で「さあ、面白いですよ、面白いですよ!」って呼び込みのひとも必要だし、中で一番奥の方にいて、すごいことやってくれるひとも必要だけど、君の場合は両方してもらいたい。まずは武春さんになってほしい。

:そうか。

:浪曲にとって、武春さんがいなくなって、どんなに痛手かって分かるけれども、君はそういうひとになれるし、君がこのままやってったら、将来的に「松之丞がいなくなったらどんなに痛手か」というひとになれると思うし。性格は別にしてな。

:性格、俺、いいと思ってんだけどなあ(笑)好き嫌いはっきりしてて。

:別に芸人の性格なんかどうでもいい(笑)。

:それ、長井さんよく俺の性格のこと言うんだけど、心外だなぁ(笑)。分かりました。それじゃあ、嬉しい言葉として、この一流の長井好弘という評論家の意見を。

:とってつけたような(笑)。それぐらいのひとが出てくれないと。講談には、松之丞がもう一人も二人も必要だよ。

:分かります。僕も同じこと思ってます。


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:せめて三十人ぐらいは引き受けないと。

:それはね、みのりにも期待してますし、みんなにも期待してますよ。そうか。じゃあ、成金についてどう思ってます?

:成金は、僕の中でさっき言ったように、若手花形なんだよ(注:Vol.2参照)。だから、ほんとにさん喬、雲助がそこから出てきてほしいと思うし。

:なるほど。さん喬師匠、雲助師匠は出てこないと思うけどな(笑)。たぶん、目指してるところが違うっていう。

:それはもうね。前例もクソもないから、とにかくもう突っ走ってほしいよね。喧嘩してもいいからね。いまさらもう全然ないだろうけれどね、喧嘩するったってね。失うものもないだろうから。

:あと、(神田)鯉栄姉さんに関して。

:鯉栄さんも、きらりのころから、講談の出番っていうと、きらりさんを使ってたっていうね。前どこかで言ったと思うけれども、あのひとが入ってきて、池之端本牧亭ですよ、それこそ。前座で入ってきて、まだこんな髪が短くて、ってころから観てるので。

:いちばん最初のころからですよね。

:他人とは思えないところがあるんだよね、彼女に関してはね。

:そうですよね。すごい思い入れありますよね。

:成長してる、っていうのがわかるんだよ。いっかい挫折してるのがあるじゃない。こう、なってきたときも知ってるし、また上がってきて、必死でやってるときも知ってるし。全部観てるから。

:なるほど。最後、ラスト質問いいですか? 同じなんですけど、松鯉一門に期待することっていうのは? 松鯉一門評論家みたいなとこあるから(笑)

:僕は、講談はね。毎年思うんだよね。「今年は講談聴こう」って。

:(笑)

:数聴きたい。

:あー、なるほど。

:知らないネタが、まだありすぎる。読んだだけとかさ、音で聴いただけとかさ。あえて極論をいうけど、講釈師ってさ、怠慢だよね。ネタ少なすぎるよ、みんな。ひとが変われど同じネタやってるんだもん。一部、連続ものやるひとが突出してるからみんなやってるように思うけども。

:なるほど。

:こんなに素晴らしい歴史の遺産があって、台本もあるのに、なんでやってくれないのか、と思う。

:ふんふん。

:新作やるのもいいけど、新作を作ってる手間暇があるんだったら、古典も復活させてください。

:ほうほう。

:それを、いま風に復活させるのが一番。そのままじゃなくてね。それぞれの個性で復活させて、僕らを楽しませてください、と思うし、松鯉先生の一門には辛いだろうけれども、そういう尖兵になってほしいな、と。

:やってるけどね、俺(笑)。

:ただ受け継ぐだけじゃなく、面白く受け継いで、次の世代にバトンタッチしてくれるようなひとたちにになってほしいな。講談ってこんなものじゃないよね、もっとあるよね、って僕はいつも思ってる。

:そうか、わかりました。

:松鯉一門会、明日か(注:2016年5月30日「第48回神田松鯉の会」のこと)。

:明日ですよ。

:「扇の的」と「雁風呂(の由来)」だぜ! 何回聴いたと思ってるんだ!

:(笑)長井さんが来すぎなんですよ。

:それで聴きにこいっていうの? みたいな感じ。天下の神田松鯉が。

:明日来るんですか、長井さん。

:明日、分からない(笑)。

:(笑)

:分からないからあんまり大きな声で言ってないだけで、行くんだったら、もっと大きな声で堂々と言う。

:ありがとうございました(笑)

追記:長井さんは一門会に来ませんでした(笑)