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新宿末廣亭・北村幾夫会長に、訊いてみた。後編

北村幾夫(写真右)きたむら いくお

1948年生まれ、東京都出身。1999〜2011年、新宿末廣亭の席亭を務める。現・会長。

【新宿末廣亭ホームページ】http://www.suehirotei.com/

前編はこちら

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松之丞(以下、松):それは、どのへんから微増ですか。

北村会長(以下、北):ちょっとよくなったねー、少しお客さんが戻ってきたね、っていうのは二、三年前からだナ。チラチラーっときてから、すーっとまた落ちて、で、また上がってきてる。

:「タイガー&ドラゴン」でちょっときて、また落ち込んで。

:最近また、(桂)歌丸師匠だ、「笑点」だ、でネ。

:メディアで取り上げられて。

:それが大きいよネ。「笑点」は、日本人のアタマにインプットされてる、っていうのは。

:会長は、「笑点」という番組に関しては、どういう思いがあるんですか。

:最初は、なんとも思ってなかったんだけど。

:(笑)あぁ、そうですか。

:土日の昼間にテレビをつけたら、必ずああいう形式の寄席番組がある、っていう時代があったからネ。「笑点」が生き残ったのは、座布団のやりとり、っていう、上品な、そして見てすぐ分かる仕組み。で、キャラづけがしっかりしている。日曜日のあの時間に、お年寄りでも、田舎のひとでも、なんでもが心待ちにできる。よく言われている、"偉大なるマンネリ化"っていう。それが日本人の気持ちにおさまるんだろうナ。そういう意味では、「笑点」は落語界にとって、大きい。

:(林家)三平師匠が、今回新レギュラーになったことについて、どう思われますか?

:まあ、あのへんだろうナ。

:読みが当たった。

:(林家)正蔵にいったら、「三平に」って言うだろうし。三平さんのキャラは、どうなんだろうナ。もうちょっとこう...。可愛がられるのはいいし、ペコペコするのはいいけど。芸人って、もっとどっかで、すがすがしい開き直りというか。あなたみたいに。

:(笑)

:俺もいろんなインタビュー受けてきたけど、最初から「二時間」って言われたの、あんたはじめて! ふつう、「三十分くらい」って言って、一時間、一時間半になるもんだよ。最初から「二時間」って言われたのはネ。

:(笑)図々しくて。すいません、貴重なお時間を。

:必要なんだよ、芸人さんには。三平には、どこで開き直るんだ、っていう、そこが大事だよネ。

:先の三平師匠(注:正蔵、三平の父)っていうのは、どういうひとだったんですか? 僕はリアルタイムじゃないので。

:よく、サービス精神に徹してた、って言われるけれども、サービスする自分が好きだったんだろうナ。

:なるほど、自己愛。全盛期の三平師匠って、どんなかんじだったんですか。めくりが返ると、客席がひっくり返るようなっていう。

:めくり、正確に言うと、返んないね、うちは見出し(注:末廣亭は、名前の書かれた木札を舞台上手の衝立にあけた小窓にはめる方式)だから。あそこ(注:小窓部分)に顔出すの、三平さんが。客が「あ!」って気づいて、笑って拍手したりして。

:えー、そんなことやってたんですか。三平師匠も、そこは図抜けてたんですか。

:よくそこまでやるよな、っていうところを、すっとばしちゃってるひとだからネ。三平さんはねェ。

:寄席のなかで、ほかに印象に残る芸人というか、知られてなくても、このひとおかしかったよね、とか、お気に入りの芸人っていうのはいるんですか?

:そうねぇ。ときどきマクラでつかわれるけど、先の(春風亭)小柳枝さんとか。

:八代目ですか。

:(二代目春風亭)梅橋さんとか。

:そっち系がお好きなんですか。

:破天荒。

:破滅型。

:破滅型ね。俺、ある雑誌の座談会で、「志ん朝より(桂)南なんが面白い」って言って袋叩きにあいそうになったもん。

:(笑)南なん師匠、破滅型ではないような...。

:寄席で聴くと、志ん朝より南なんが面白いヨ? 志ん朝さんに期待する、っていうのはネ、こんくらいのもの(大きな丸)を期待してるじゃん、こっちは。志ん朝さんは、このくらいで(最初の丸より少し大き目の丸)返してくれるからサ、満足できるところって、このくらい(二つの丸の、わずかな差)しかない。ところがサ、南なんにサ、南なんだヨ? こんぐらいのもの(小さな丸)が、こんなんなって(ぐにゃぐにゃしたナゾのかたち)返ってくると、この部分、全部。

:なるほど。

:南なんとか、(三遊亭)笑遊とか。

:あー。会長、そういう爆発的なの好きっちゅーか、ありますね。

:そらそうだヨ、聴いてれば。

:ずーっと聴いてるの、すごいな、と思って。ずーっと聴いてるんですか?

:うん、スピーカーではネ。聴きながら仕事してる。

:それ、なにをチェックされてますか?

:いやもう、流れで聴いてるから。たまに、そのひと独自のクスグリが入ったりすると、ピピッて分かるし。どっかで会ったときに、「なんだ、あのクスグリは!」って言う。

:「あ、聴いてたんですか?」みたいな。

:だから、客にウケなくてもね。南なんの「初天神」で、「お父っつあん、飴買ってくれよ、買っておくれよ...摩訶般若波羅密多〜」「おがむな!」っていうあの、「摩訶般若波羅密多」ナ。それから笑遊の、「おまえなあ、おふくろがこぼしてたぞ」「おじさん、拾っといてくれた?」「え、なにを?」「かっぱえびせんでしょ? うちのおふくろがこぼしたの。このまえもこぼしてたんだよ」「そんなんじゃねぇ!」全然客ウケてないけど、俺、息が絶えるかってほど笑っちゃった。

:別にヨイショじゃなくて、会長に聴いててもらえる、っていうのはやっぱり、芸人がすごく信頼を寄せてるところですよね。お客さんウケてなくても、聴いててくれてる、だれかが、っていう、いちばん最後のところを、観ていただいて聴いていただいてる、っていう。深夜寄席とかも、ずっと聴いていただいてるじゃないですか。

:深夜寄席は、若いとき俺の当番だったんだよナ。それっきりだよナ。

:ずーっと聴いていただいてて、ていう。いま、深夜寄席すごいお客さん増えてますけど、最初ってどのくらいだったんですか?

:最初、30人とか20人ってことあったもん。

:それ何年前くらいですか?

:俺が来て、すぐくらいだよ。

「喫茶楽屋」の石川慶子さん(以下、慶):たしか、深夜寄席がはじまったのが、昭和四十六年。いまの(桂)文楽師匠が、うちのおじいちゃん(北村銀太郎)とおばあちゃん(銀太郎の後妻・すゑ子)に頼んだみたい。おばあちゃんたちが、「おまえたちネ、こんなとこでたむろってないで、どっか仕事行け」つったら、「しゃべるとこないんです」っていうから。じゃあ、土曜日の夜だったら、おまえたちが全部やるんだったら、貸してやってもいいよ、っていったのがはじまりだったので、あそこ(店の入り口)にビラ貼ってるの。

:ああ、そうですか。

:まさに、その席でね。小益(文楽の前名)時代ね。そっからスタートだから。

:小益や(三升家)勝二(現・小勝)さんだよナ。

:あのひとたちが二ツ目のときからスタートしてる。でも、あんときは、出てないひとも多いよね。(林家)種平さんなんかに聞いたら、「俺、いっかいも出たことない」って。

:最初は、あのへんの仲間内でやったたんだよナ。

:客も入んないから、つばなれ(10人を超えること)とかだったから、出たくないんだって。別の仕事入れて、来なかったりとか、あったって。たまたま残ってた二ツ目さんが、出番じゃないのに出たりとか、(八代目橘家)圓蔵師匠が出ちゃったりとか。

:(笑)

:トリとったあとに、客が少ないから、「ばっかやろう、てめぇらみたいなモンの落語聴いてんじゃねぇよ」つって、自分が一席打っちゃったりとか。

:へー。

:そしたら次の週にまた同じお客さん来て、「きょうは圓蔵師匠出ないんですか?」とかさ。

:(笑)

:ラーメンご馳走した、って話もあったみたいよ。

:あったナ。

:10人ぐらいしかいないから。したら、また翌週も来て、「きょうはラーメン出ないんですか?」って。ほんとの話みたいよ。

:僕も二ツ目で出させていただいて、すごく感動するのが、会長が最後まで聴いていてくださっている、っていう。それは大事にされてるんですか。

:まあ、残ってるし、俺も土曜日は泊まっちゃうからネ。若いひとがやってる噺は、聴いてて、たのしいはたのしいよナ。自分なりの工夫を、ひとつでもふたつでも、いれてるしな。なんでもないひと言でも、入れるまでには随分考えてるんだろうしサ。いいものは「いいな」って言ってやりたいし。

:いまお客さんが増えてて、200人超えるのがふつうになってて。二階席を開けるっていうのは、難しいですか。

:そうねェ...。結局、最初は芸人さんたちの自主公演で、30〜50人、70入ったら御の字。椅子しか使わない、桟敷も使わない。深夜寄席のお客さんも、そういうもんだ、と思って入ってくるし。実験的で、二ツ目さんが芸を磨く、って場であって。客と二ツ目さんの、そういう一体感もあったしネ。普段の寄席で勉強してるんだ、って意味合いもあって。で、"興行"かどうか、って言われると、はっきり言って"興行"だとは思ってないんだよ、俺は。"二ツ目の勉強会"って思ってるから。ただ、200も入っちゃうと、お客さんの管理とか、いろんな問題が起こってくるよネ。

:そうですね。

:そうなると、うちのスタッフがいなくていいのか、みたいなことも出てくるわけだ。仮に、二階使ったら、うちのスタッフが、二、三人必要でしょ。うちの場合は、お茶子さんがお客さんの案内や管理をしてるんだけど、(夜)11時、11時半まで残せるのか、とか。その給与とか。厳密なこと言い出すと、(夜)10時以降に、こういう風な客入れをして商売をするんなら、やれ消防法だ、警察だ、だのが。昔、「いや、自主興行で、うちが儲けようと思ってやってるんじゃないんで、黙認してくださいよ」みたいなのもあって。最近の風潮でネ、こんだけ大々的に深夜寄席が、って取材なんかが増えてるんだけども。きみたちは大勢のお客さんの前で、張り合いもあるし、入るほうもよければ、それはメリットしかない、って思うかもしれないけれども、どっか俺は、本来の姿からちょっと、離れてきてるなア、と。末廣亭の名物ではあるけれども、若いひとが勉強する場。そして、ふつうの興行には、三千円じゃなかなか入りにくいけれども、深夜寄席を入り口にしよう、っていう、はじめてのお客さんを、若いひとなりに楽しませてもらえれば、って、細く長くやっていきたいもんだと思ってるから。

:なるほど。

:もし、「どうしても二階を」という話になると、「悪いけれども小屋代を二万でも三万でも入れてくれ、そのかわり、値段設定はそっちでやってごらん」ってなると、ちょっと違うものになっちゃうしなア。

:四十数年前にはじめたときの、"勉強会"っていうかたちと、いまの人数がずれてきちゃってて、状況変わってきちゃったんで。最初の約束の、「勉強会だったら」っていうところと条件も変わってきて、いま、微妙なところ。

:五百円、っていうのは、なにもしないで一時間あそこに座ってられて、五百円でもいいんじゃないか。仮にも噺が聴ける、とかネ。

:五百円、っていうのは誰が設定されたんですか?

:いちばん最初は、二百円でやってたけどネ。それが三百円になり、あるとこらへんで、二ツ目さんの深夜の係が、「三百円っていうのも...。いまラーメン一杯五百円の時代なんで、ラーメン一杯、コーヒー一杯の感覚で、五百円にしてもらえませんか?」「まあまあ、そんなもんだろうナ」って五百円にしたのが、もうずいぶん前だからネ。

:会長は、四十数年深夜寄席を見ていて、どういう思いがありますか。

:「もう、やめちゃおうか」って話はずいぶんあったン。みんなも、30人や40人じゃ、ネ。一朝、さん喬、権太楼、雲助並んで。

:あの世代。

:それで30人40人じゃあなア。でも、「これじゃあなぁ...」って声がひとりいれば、残りの三人は「いや、僕ら蕎麦屋の二階ならいくらでもできるけれども、ここでやらしてもらいたいんで」って声が強くて、続いたよナ。

:末廣亭で若手がやらしていただく、っていうのはある種夢ですよね。それはもう、思いますね。

:寄席で、客の前でやるのが、ていう。それが十年前くらいに「R25(注:リクルートが発行していたフリーペーパー。2015年休刊)」かなんかに出たのがきっかけで。

:爆発的に。お客さんが来るように。

:それが落ちないよなア。

:落ちてないですね。「R25」が出るまえは、どのくらいだったんですか?

:よくて80。ちょっとあれだと、50、60。雨降ったりなんかすると40、30。

:「タイガー&ドラゴン」とも重なって、そこで、がっと。

:そうだネ。リピーターは、二ツ目さんの力だろうし、サービス精神だろうし。いろんなところの取材が、後追い後追いで順番に来て、ちょっと下火になると、また取材が入ったりとか。それから、あなたとか。ネ。(春風亭)ぴっかり☆とか、(林家)つる子とか、(神田)蘭とか。違う客が。

:(笑)全然違うお客さんが。そうですか。

:それでいま、ある意味、風物詩みたいにナ。

:毎週土曜日は、っていう。

:みてると、客層がここまで変わったな、っていうのもある。土曜日のあの時間まで、ほとんどシラフの客が多いっていうのも、土曜日の(夜)9時まで酒飲まずに、なにしてるんだろう? これを待ってるんだろうか、ってナ。いま客が入って、なにもなければいちばんいいんだけど、具合の悪い客が出てきたりとかネ。対応が悪い、と言われたりとか。そういうのがないところだったからナ。

:30人、40人のころは。

:知らずに入る、ってお客さん、まずいなかったからネ。そのへんを考えると、どうしたもんかな、と。

:いまのところは、このまま。

:うーん。なんでもネ、"適正値"ってあるじゃん。

:そうですね。

:だから、その小屋とやるもんに対する"適正値"を、深夜寄席だけは超えちゃったという。

:思わぬ、嬉しい誤算というか。

:志ん朝さんの独演会に、500人でも2000人でもいいけども。だいたいは、キャパにあった客(数)が来るもんなんだよ。

:寄席における講釈って、どういう役割だとお思いですか。ときどき僕もすごく考えるんですけど。

:松鯉先生や(二代目)山陽先生の。山陽先生は、徹してたよナ。講談のたのしさ。それから(六代目一龍斎)貞丈先生とかは、完全に自分を殺してたんだろうか。

:落語に寄せてた、ってことですかね、講談を。

:うん。やり方としては二、三分の力でやってた。

:(笑)

:ぱっぱか、ぱっぱか、ぱかぱかぱ。

:(笑)貞丈先生ですね。それを観てて、会長どうお思いでした。

:楽(日)ぐらいは、本気になって40分やっちゃえばいいのにな、って。

:寄席で観る大師匠(二代目山陽のこと)っていうのは、どっか、笑いをとって、寄せてる講釈で、いわゆる「寄席の講釈」とはこういうもんだ、っていう空気だったんですかね。

:(七代目)貞山先生は、また違ったろうし。いま(宝井)琴柳、(宝井)琴調。琴柳、体調崩しちゃったけど。よかったのになア、きびきびしてて。いま松鯉先生が、寄席の講談として、邪魔にならず、めりはりをつけて、客の印象に残すという。ヨイショじゃなく、あれはいちばんいいかたちだな、とおもうよなア。ネタもいろいろ変えて。「はっ! かーっ(なにかを投げるフリ)」

:「卵の強請」?

:「卵の強請」。

:(笑)

:「わしはここで腹を切る」「こぉちやまさまぁーー」。ナ?

:(笑)うちの協会で、講釈の男が、松鯉と三代目山陽と、わたしの三人しかいないんですよ。男の講釈に、どう機能してほしいとか、ありますかね?

:やっぱり、客の印象を全部かっさらう、くらいのナ。別に落語家さんに言われないだろ? 「おまえ、ちょっとやりすぎだよ」みたいな。

:もう言わないですね、だれも。

:だろ? 昔はサ、(五代目)今輔、(六代目)柳橋、(二代目桂)小文治、(五代目春風亭)柳昇さん、(十代目)文治さんあたりは、なんか言ったと思うけれども。いまはそういう意味でも、よく言えば、おおらかになり。それか、自分の芸に自信があるか。あるいは、なんも考えてないか。どっちでもいいや、と思ってるか。おまえはおまえ、ってかんじでね。

:なるほど。

:でも、きみだって、深夜(寄席)のきみとサラ口(前座の次の出番)と...クイツキ(中入り後すぐの出番)も出たことあったっけ?

:はい、出させていただいたことあります。

:それぞれ、やりわけてるだろ?

:そうですね。

:それは? 俺はそれを聞きたい。なぜクイツキで、深夜のおまえをやらないんだ?

:ときどきやってますけど(笑)。尺の問題もありますし。やっぱり単純に、それが師匠の芝居だったりすると、やりすぎちゃいけないのかな、っていう遠慮はあります。

:寄席は、やっぱり流れだからネ。トリにつなげるのが仕事。

:会長、まえに七分くらいの力でやればいい、っておっしゃってましたよね。

:うんうん。

:逆にどうでもいいところで本気でやられても困る、って。流れがあるから。

:当人も客も疲れちゃうじゃん。

:これ、毎回いろんな方に聞いてるんですけど、わたしに期待するというか、思うことってなにか。

:財布なくすな、ってことと。

:(笑)その節は、大変ご迷惑をおかけました(注:以前、深夜寄席で財布をなくした)。

:おまえぐらいになりゃあ、もう自分でみつけンだナ。ただ、(三代目)山陽の二の舞にだけはならないで。

:(笑)みんなに言われます。

:あいつ、なにしてんだ、いま。

:まったく分かんないです。北海道にいるってことは分かってますけど。

:なんだよ、イタリア行ったり(注:文化交流使として一年間イタリアに滞在した)北海道行ったり。期待してたのにー。新作講談。

:山陽兄さんと僕の違いっていうのは、なんか。

:山陽は、やっぱりうわずってたよナ。

:はあ。

:おまえは肚ができてンだろ。山陽はこのへんから(喉のあたり)、つーっと喋ってた。おまえはこのへんから(へそのあたり)出てるから、いいんじゃないの? 肚が据わってるから、できてるからナ。

:嬉しい言葉ですね。

:誤解を恐れず言えば、ここ(喉)からどんな面白いこと言っても、消えてっちゃうから。「なんか、面白かったなー」くらいでおしまい。ここ(へそ)から出た言葉ってのは、そんとき笑えなくても、ずっと残ったりするからナ。肚から出た言葉は、相手の肚に入るから。

:ああ、なるほど。

:ここ(喉)から出たかっぱえびせんなんてのは。

:(笑)会長、腹抱えて笑った、って言ってたじゃないですか。

:俺は、その、多少敏感に拾える、ってだけだけど。

:席亭アンテナで(笑)。

:「面白かったねー」って、出てったお客さんがいるわ。「面白かったですか?」「面白かったよ!」「ありがとうございまーす。どこが面白かったですか?」「どこ...? 全部面白かったよ?」「だれが印象に残りました?」「えーっとね...だれだっけ? ...あ、緑色の着物のひと?」

:(笑)

:「違うわよ、それじゃない」「休憩の前のひと面白かった」「どこが面白かったですか?」「どこ...? なんか言ってたもんねぇ」それでそのへん(末廣亭からひとつ目の角)曲がって、「さっき寄席で面白いって言ってましたけど、思い出しました?」っていうと、「えー、なんだろうなぁ?」みたいな。で、あのへん(伊勢丹のあたり)行くと、お腹空いてる、とか、家帰る、とか。

:(笑)だいたいそのへんで消えてしまう。

:消えてしまう。それでいいのだヨ。

:消えものとしての。なるほど。

:いつまでも、俺みたいに、「あのひと言が...」なんて思ってたら。

:この高座忘れられないな、っていう高座が。

:うーん。やっぱりネ、いい師匠の「小品」。たとえば(五代目)小さん師匠の「強情灸」とか、志ん朝さんの「道灌」、(十代目)馬生師匠の「長屋の花見」、談志さんの「短命」、(五代目三遊亭)圓楽さんの「町内の若い衆」とかね。(柳家)小三治さんでも、短い「花色木綿」とか。時間ない、12、3分、15、6分しかないところでサラっとやった噺がナ。爆笑呼んでいちばん印象に残る。

:プロの目からみて、短いなかで、そのひとの色を、しかもサラっと、七分の力でどれだけ出せるか、ってところをみてるんですか。

:七分の力、っていうのは、七分しか出ない、ってことないからネ。七分の力で、十二分出たときがあるはずだから。それがいちばんだネ。十二分の力出されて、七、八分しか出ないと悲劇だヨ?

:大ネタよりも、芸っていうのはそういうところに出る。

:そうだよ。「ねずみ穴」とか「浜野矩之」とか「井戸茶(井戸の茶碗)」とか、みんなやるけどもサ。なんてンだろナ、大きい噺で筋立てがあって、人情がからんで、最後、わー、とかいうのはサ。そりゃ、いい噺に聞こえるの、当たり前じゃない。俺がやったってサ。

:もちろんですよ(笑)。

:(笑)

:いま、"二ツ目ブーム"とか言われてますけど、わたしはあんまり実感ないですけど、会長はどう思われてます?

:まあ、面白"がる"風潮だから。"がる"。

:がる。

:"面白い"と思ってなくても、「みんなで面白がろうよ!」って世の中だろ?

:そうですね。

:ひとりひとりの判断はできなくても、とりあえず、面白がってよう。"みんなでグラブル"。深夜寄席も、そのブームだと思うんだけどネ。

:たしかにそうですね。

:「面白がってると、たのしいねー」とかさ。

:会長はふつうのお笑いも大好きで、バラエティ番組とかもよく観るって前におっしゃってましたけど、お笑い全般が好きで。

:笑いっていうものが、(桂)枝雀師匠は「緊張と緩和」みたいな言い方をしたり、日常と非日常の境を行ったり来たりとか。いま、世の中が、変に窮屈になってるんだか、枠がなくなっちゃいすぎてんだか分からないなかで、これでひとを笑わせられる、って判断力は、若いひとすごいな、と思うけどネ。

:なるほど。

:よくあれで、笑わせられる、って判断して、板(舞台)にかけるねェ。

:(笑)

:そしてまた、笑うねェ、って。最近の漫才って、みんなでネタをつくって、もみ合ってやってるんだろうけど。だれかからホン(台本)をもらって、じゃない漫才になってるでしょ? 寄席もみんなそうだよね。その感覚ってのがすごいんだなぁ、って思う。噺家さんは、ますます苦しいと思うんだ。マクラでそういうことは言えても、噺に入っちゃうと、噺決まってるわけだから。そんなかでどう変えるつっても、変えてバラバラになって収拾つかなくなったら当人の責任だし、「おまえ、古典落語をなんだと思ってんだ」なんて言われるだろうし。かといって、教わったまんまやったんじゃ、客がどんどん引いてく、みたいなの分かったら辛いだろうし。

:いま、流れとして、「教わったまんま」のひとが売れてなくて、崩してるというか、ちょっとそっちの方のひとが売れてるというか。僕も、どちらかというとそっちですけど。それについてどういう思いがありますか。

:噺なんて、壊して、壊していくのが、噺の命だからネ。

:ああ、そう仰っていただける。

:うん。つながってはいるけど、そのまんまのものが残ってるなんてことは、ひとつもないはずだから。

:なるほど。

:だから、どこまで壊すかは、そのひとのセンスだし、こんだけ壊しても、また元の噺に戻って終われるんだよ、っていうのはそのひとの力だから。壊しっぱなしでどうにもなんなくなっちゃった、ってひともいるし。壊すのが怖くて、教わったまんましかやりません、ってひともいるだろうし。また、それでいいよ、って客もいるわけだけど、それじゃあつまんねぇんだろ、やってるほうも、って思うひともいる。このほうが楽ですから、ってひともいるんだろう。それが上手ければ、それでいいしナ。なんでもありだろう、そういう意味ではナ。

:なるほど。

:壊すのはセンス。壊して、やりきるのは力。技と力と、一緒にナ、ないと。技って、力のなかにあるもんだから。技だけいくらもっててもねェ、力がないとかけらンないし。そのへんは演者さんの感覚ですねェ。

:最後に、僕に期待することとか、もしあれば。

:芸人さんていうのは、目の前のお客さんに喜んでもらおう、っていう動機と、それから芸の道をネ、究めたいっていう思いと、二本立てで。"自分"を、どんだけ持ってればいいのか。自負心ってのもないと、成り立っていかないでしょう?

:はい。

:それが強すぎるとネ、談志さんみたくなっちゃうし。「談志さんみたく」ってなんですか? って言われると困るんだけど。「ひとを喜ばせたい。ウケて気持ちいい」っていうのが強すぎないように。抑えるところを抑えて。それで、師匠(松鯉)の様式美、ってあるでしょう? あこがれもあるだろうけども、「俺はそれのままではいけない」と思うでしょう? いま、この時代に、「松之丞」としていまを生きて、講談の世界に入ったんならば、「松之丞は松之丞」として生きていく。芸の世界、っていうのは、自分でやりながら見つけていくしか、そりゃしょうがないだろう。

:うちの師匠が、縁起でもないですけど、十年以内に亡くなるかもしれない。僕も会長みたいに、そういう、最悪の事態を想定しながら生きてるんですけど、師匠が亡くなったら、いまのやり方じゃダメだ、っていうのは分かるんですよ、僕みたいなものでも。講釈の質自体を変えなきゃいけないかな、って。寄席のなかにおいても。うちの師匠みたいにはできないですけど、あれと、いまのわたしの中間ぐらいのところで生きていかないといけないんだろうなあ、と思うんですけど、それに対応できる年齢でもないし。

:おまえいくつだっけ。

:いま33です。

:じゃあ、まあ40過ぎれば...。(十代目)馬生師匠、30(歳)で何人弟子がいたことか。昔のひとはすごいよナ。

:(笑)たしかに、そうですね。

:年齢に不足は、なくすんだナ、自分のなかで。

:ああ。

:昔はネ、よく、「客席の平均年齢を超えないと、言うことが生意気で聞けない」っていうのがあったけども、いまはお年寄りも好意的だし。大丈夫じゃないかな。

:(笑)なるほど。

:様式としての講談の美しさと、客の心をぐいぐいねじ伏せていく力と、ナ。使い分けができるだろう、おまえだってナ。

:うーん。やってるつもりなんですけど...。

:使い分けることに、罪悪感をもつ必要ないからネ。

:ああ。

:うん。ここでの俺は、これ、っていう。

:先のことですけど、想像つかないですけどね。いまはチンピラなんで、そのままでいいと思うんですけど、師匠が亡くなっちゃったときどうしよう、っていうのは。相談できるひともいないので。

:みんな、それは通ってく道だから。親離れと同じで、師匠が死んで、はじめて一人前だヨ。師匠が死んで、がっくりもくるし、さびしいし、大目標を失った、って思う時期もあるだろうけど、どっか、「これで俺も自由だ」っていう気持ちをもてないとナ、そのあとやっていけないヨ。師匠が死んで、一人前。そして、もういっこ言うと、弟子をとって一人前、だろうね。弟子に教えられることって、結構あるだろうからナ。

:ああ、なるほど。

:「俺が弟子のときには、こういうこと思ってたけどなぁ」とか。いろんな目で見るだろうけど。

:そうですか。ありがとうございます。

:きみ。うん、好きなようにやんなさい。

:ほんとうにきょうはありがとうございます。

:あっという間の二時間だったネ。たのしい時間は、あっという間に過ぎるもんで。

:(笑)ほんとに、あの、こんなに時間をつかっていただいて。恐縮です。

:おまえはお茶子さんにも評判いいし。

:ああ、そうですか。

:うん。松之丞さんたのしみにしてるし。めりはりが効いてるところがナ。普段のあれと、高座とが、全然違う。やっぱり芸人は、自信がないとナ。

:ああ。

:自信の"あるフリ"は、できないとダメだナ。「俺ほど上手い芸人はいない!」つって。で、夜中にびくびくして、おどおどして寝りゃアいンだヨ。

:(笑)

:「あんなこと言っちゃったけど、どうしよう〜」って。それが正しい姿。

松之丞あとがき。

会長の言葉。

寄席に携わる人間としては、いま出てるひとが大事で、いま来るお客さんが大事だから、
「あのひとがいればいいなぁ.....」ってことはもう、考えないようにしてます。

伝統とは何かと考える。それは形式をなぞるのではなく。

少しずつ、人は入れ替わっても、同じ場所で同じ高座でお客様に喜んで頂く。

演者のリレー。お客様のリレー。席亭のリレー。

今いる名人上手も、それを支えているお客様も席亭もスタッフも、私も必ずいなくなる。

少しずつ変わってても、今日もあそこに行けば笑えるという。

そういう場所に出られる事を、心から誇りに思う。

インタビューを通して、改めてそれを強く感じた。


※松之丞の新宿末廣亭出演予定

新宿末廣亭7月上席(1〜10日)
師匠・松鯉の怪談芝居です。なんと、阿久鯉姉さんも出演します。
【松之丞出演日】2016年7月1日 金曜日、3日 日曜日、4日 月曜日、6日 水曜日、7日 木曜日 
【松之丞出演時間】16:45ごろ

新宿末廣亭余一会
あの雀々師匠に呼んで頂きました。生志師匠、白酒師匠と、紋之助先生と、座談もありますよ。
【開催日時】2016年7月31日 日曜日 17:00開演