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桂宮治兄さんに、訊いてみた。Vol.3「兄さん、二ツ目の最高峰から見てる景色は?」(最終回)

桂宮治(写真右)かつら みやじ

1976年生まれ、東京都品川区出身。本名、宮利之(みや としゆき)2008年、桂伸治に入門。2012年、二ツ目昇進。同年、NHK新人演芸大賞落語部門大賞受賞。ほかにも、にっかん飛切落語会最優秀賞(二年連続)、国立演芸場花形演芸大賞銀賞など、多数受賞。

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Vol.1「兄さん、なぜ落語家になったのですか?」

Vol.2「兄さん、前座時代の「神田松之丞」はどんな後輩でしたか?」

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松之丞(以下、松):兄さん二ツ目の一年目で、ものすごいブレイクした。

宮治(以下、宮):別に、ブレイクはいままでの人生で一度もしてないけど。

:一番最初にNHK獲ったじゃないですか。二ツ目になって。

:3下(注:3月下席のこと)に上がって、秋に優勝してる。

:(笑)NHKの新人演芸大賞って、二ツ目が一番最後にもらう賞じゃないですか。もらえたら売れる、みたいな。

:中盤以降だね、獲るのは。

:兄さんは二ツ目の数ヶ月で獲っちゃった。

:獲っちゃったね。

:そのあとも、にっかん飛切(落語会最優秀賞)とか北とぴあ(若手落語家競演会)とか(国立演芸場)花形演芸(大賞銀賞)とか、ばーって七つくらい獲ってるじゃないですか。

:三年くらいでね。

:三年くらいで。もうこれ兄さん、目標がないっちゅーか。

:でも落語ってさ、そのときの順番とかさ、横一線に並んだら、そんな差はないよ。だからたまたま運がよかった。

:運がよかった、で獲れる流れじゃないと思いますけど。それで兄さんががーっときて、仕事も一周して、芸協に宮治がいる、と知らしめて、"宮治一強時代"が続いたじゃないですか。そこで成金(注:宮治、松之丞を含めた、若手落語家・講談師十一人のグループおよびその関連公演名)ができたときに、正直兄さん成金に入りたくなかったんじゃないですか?

:そんなことないよ! だってうちの師匠の教えで「仲間大事にしろ」(Vol.2参照)。仲間と一緒にやってたほうがいいよ、ひとりぼっちやだよ。

:兄さん、孤独だったんじゃない? 賞アホほど獲って、落語協会と年中ぶつけられて、向こうも死にもの狂いでやってくる、みたいな。

:NHK獲ったときに、「やっちゃった...」と思った。前座の終わりくらいに、二ツ目初年度に本選に出る、って目標があったの。それくらいのことしないとダメだな、と思って。(瀧川)鯉八兄さん出たあとだったから(注:2011年)、あの兄さん出てるんだし、俺にも本選出るチャンスあるんだ! と思って。そしたら本選出場の電話きて、「よっしゃ夢叶った!」と。優勝するなんて絶対思ってないから。勝ちたいな、とは思ってるけど、それは二年目三年目でいいや、と。で、本選で名前呼ばれた瞬間に、「嬉し...やっちゃった、どうしよう...」と思って。あと、そっから恐怖だよね。

:そのあとね、落ちるわけにいかないっていう。

:そうそうそう。それからは、楽しい、より辛いほうが多くなるよね。いまもそうだけど。

:そこで結構空気変わりましたよね、うちの協会に対する。

:うちの協会を、すごい協会にしたい、という思いはあるよね。自分が頑張ることで、そういう空気を変えられるっていうことは分かってるから。そういう思いもあったよね。さっき言ってくれたけど、大きい会にばんばん出してもらえるようになるじゃん。二ツ目として普通はない。

:破格の。

:意味が分からない。若手真打さんが上がるところに二ツ目なりたてで入れられちゃう。ここでしくじれない。意味が分かんない作業が続いて、いま。みたいな。

:でも兄さん、ずっと結果残してきたよね。

:そうでもないよ。結果を残せてたらもっと売れてるよ。

:落ちてないですよね。

:落ちてるよ。落ちてないように見せかけて頑張ってるだけだよ。

:成金が出てきたときに、俺が出てきたりとか、(柳亭)小痴楽兄さん鯉八兄さんとか、宮治兄さん一強だったのに、仲間が兄さんにつかまるように出てきたじゃない。それって兄さんのなかで本音言えば、あんまりおもしろくないよね? プレイヤーとしたら。

:プレイヤーとしたら、一強体制というのはラクだけど。俺、絶対天狗にはならなかったの、賞獲ったときも。絶対ダメなときがくるから、しかも、すぐにくるから。そっからもういっかい這い上がれたら、俺本物だな、と思ってる。いま、徐々に落ちていってる。そこで他のひとがばっといく、というのも分かってるから。想像通りなの、いまの状況って。まっちゃんが爆発的にどーん、といって、ああ、やっぱそうだろうな、と。でもまあ、そこは悔しいし、やんなきゃな、と。そうならないと、頑張らないわけじゃん。こんな程度で、ここまでこれちゃうんだ、ってなめちゃうじゃん。

:そうですよね。

:そうじゃないよ、ってことが分かるから。じゃあもっかいどん! とロケットみたいにいくには、地道にインプットインプット。出してしかいなかったから。まあ、そうもさせてくれない状況もあるけど。

:流れ的にも、芸協のやつらが上がってくるのは仕方ないし、そういうもんだな、と。

:しょうがないし、っていうかなるべくしてなってるし。人間ってさ、同期とか仲間とか近くにいるやつらが切磋琢磨本気でしはじめたら、能力って絶対上がるわけじゃん。

:そうですね。

:みんなの目標が、仲間を潰し合うことじゃなくて、うちの協会をすごい協会にすること、っていう。仲間として一個の目標ってあるじゃん。うちらの協会で、うちらの世代が変えたっていうか、てっぺんもってきたんだよ、っていう。だから個人が頑張ろうよ、みたいなのあったし、実際そう言ってたじゃん。だからまさに理想のかたちになってるよね。

:徐々にね。兄さんもう他の二ツ目と戦ってないというか、いま戦ってるのって真打だったりするじゃないですか。もう二ツ目でいることが窮屈? どっかで。

:二ツ目でいるから、ラクなんだよ。そういう場所に出させてもらえるのも、「二ツ目なのに」って言ってくれるじゃん。

:逆に。なるほど。

:真打になっちゃったら、「当たり前でしょ」ってなっちゃうでしょ? ちょっとウケれば、「二ツ目なのに!」って言ってくれる、一番ラクなポジション。ただ、そこに行くまでに努力はしたよね。

:もちろん。兄さん大きい会に出て、どうですか? いろんな師匠方と会って。

:やっぱり、すごいよね。「うーわ、すげえ」って肌で感じられるわけじゃん。そういうすごい師匠方と組ませてもらえる、そこの入り口に入ったら、あとは、頑張って結果を残そうとする→師匠方には追いつかなくても、多少ウケることができる→じゃあまた使ってもらえる→その評判を聞いて、また別の師匠が使ってくれる→すごい師匠たちの話が聴ける、常日頃考えてることまで知れるわけじゃん。この師匠こういうことを考えて日常生活を送ってるんだ、こういう稽古してるんだ、それがまた自分のものになって、別の仕事につながる。

:いいサイクル。

:ほんと、そこなんだよね。高座数は増えてくる、毎日しゃべることができる、どんどんスキルが上がる。まっちゃんもね、分かるじゃん、仕事多いから。月に何本しゃべったかによって、スキル全然変わってくるじゃん。毎日しゃべってたら、絶対上手くなるの当たり前じゃん。

:いっかい売れっ子の波にのったら、そこで努力さえ怠らなかったら、ずっと売れっ子の海流でいますよね。

:いられるよね、ギリギリね。でも、そこも俺も怖いと思っていて、恐怖感といつも戦ってるよね。逆サイドにいるひとたちって、仕事がない=高座数が増えない→どうしようどうしよう→まあいいや、って稽古しなかったりする→たまに仕事きた→ひさびさにしゃべる→毎日必死で稽古してないから、ああなんかちょっと違ったなあ、次はこうしたいなあ、と思うけどその日まで時間がある→まあいっか、ってなる。逆のサイクルがあるんだよね。

:海流が違うんですよね。

:そうそう。だからこっちいっちゃったらやばいな、っていうのはすごいあるよね。

:俺、聞かれたんですよ、ある二ツ目に。どうやったらこの流れ乗れるんですか? って。俺、そんなの分かんねーよ、つったんだけど、兄さんどう思います? 

:ものすごい単純。簡単で、うちの師匠の言ったこと。「その日の一番になる」ってことを考えて落語やってればいいんだよ。

:それを考えてやってる。

:そしたら結果は出てくるのよ、それが体現できるひとはね。ただ、思ってても、実践できるひとなのか、できないひとなのか。結果として、一番になる、って不可能に近いわけじゃない。そんなね、二ツ目になりたてとかで、番組で一番になるとか不可能だけど、そのためにはじゃあなにをするのか、って考えたときに、しなきゃいけないことは山ほどあるじゃん。それをちゃんと本気で考えてるひとは、するわけじゃん。「その日の一番になろう」って言葉だけで、「じゃあ今日の高座頑張ろう! 笑いとろう」ってことじゃないの。分かるでしょ? それをするにはどうするのか、ってことを考えて、それをやってたら、絶対結果出てくんだよ。

:うーん。

:だから、どうしたらいいですかね? ってひとに聞いたり。

:(笑)

:なんだろうな? って思ってる時点で、まだちょっと早いんじゃないの? 自分で分かんなきゃ無理じゃん、この仕事。

:なるほどね。

:正解なんてないわけだし、誰がどのタイミングでどうなるかなんて絶対分かんないしさ。五年前にうちらがこうなるなんて、誰にも分かってないわけだし。ただ、自分がこうなるためにはこうしましょう、っていうのを自分で考えて、自分で一生懸命やってるやつに結果はついてくるんだよ。

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:兄さん、一番意識してる芸人って誰ですか?

:(三遊亭)兼好師匠と(春風亭)一之輔兄さん。

:やっぱりですか。

:兼好師匠は、前座のときからめっちゃ使ってもらってて、協会違うのに。袖でずっと勉強するじゃん。ああいう風になりたいって。いまでも落語覚えてやるときに、どうしても兼好師匠のスパイスが自分のなかにあって、出てきちゃう。ああいうふうになりたい、っていうのがものすごいあるから。目標だよね。で、一之輔兄さんも前座で使ってもらって、見ててすごさ分かってたから、あの兄さんの二ツ目時代のさ。こうなりたいなっていうのはずっとあって。なおかつ、いろいろ似てるのよ。年齢もいっこしか違わないし、末っ子長男で、ねーちゃん三人いて。家族構成が似てるから、「俺も、ああなれるんじゃないか」って夢が持てるよね。全然落語の入り口とか違うしさ、向こうは落研(注:落語研究会。大学のサークル)だし、すげー落語好きだしさ。めっちゃ上手いし、似てるなんておこがましいけど、単純な目の前にある目標として、前座から二ツ目上がるときは、ものすごい目標だったよね。子どもも三人いて、向こうは男男女、うちは女女男だしさ。

:そんなのも意識すんの、兄さん(笑)。

:そこまで意識した! 後付けだけどね。あの兄さんが大抜擢で真打昇進するその日、俺は二ツ目昇進だからさ。三月二十一日。上がった瞬間に、あの兄さんが二ツ目からいなくなった。二ツ目としての目標じゃなくて、ああならなきゃならないんだっていう目標として、一之輔兄さんがいる。芸風も違うし、レベルもまったく違うけど。

:兄さん自身は抜擢とかについてどう思ってます?

:知らないよそんなの。自分で決めることじゃないし、うちの協会ではそんなのないし、あったとしても俺はまだそのレベルではないと思ってる。

:兄さんと俺はいっこしか香盤(注:芸人の序列のこと)違わないじゃないですか。だから、普通に順々でいくと、いまの流れでいくと、六年かかるんですよね。

:そうだよね。

:六年なにすればいいのかな、って。兄さんもう行くとこまで行ったというか、本多劇場でやるっていうのは夢のことなんですよね? 芝居的に(Vol.1参照)。

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:そう! いずれいつか真打とか大看板になって、と思ってた。

:それできちゃってるじゃないですか?

:そうね、奇跡的にね。

:もうその、やることないっちゅーか。兄さんどこに目標もってんのかな? きた仕事受けて、そこで結果出すって繰り返しだけど。その六年で、兄さんなにするのかな? って。

:正直わくわくドキドキ感が減ってきてるというか、目の前にきてしまった大きな山を必死に登らなきゃいけなくて、登った上から見られる景色を楽しんでる余裕がないんだよね。二年前に国立(演芸場)年四回やって、それが僕にとっては最大の山だったわけで。その山もう、意味が分からない。年四回国立埋めるなんて、意味が分からないけど、やるだけやる、やって失敗して、やらないやつに文句言われたって、やってないやつよりやったやつの方がいいんだ、その山登った景色が見てみたい、ってその時に言ったんだけど、たしかに景色も変わったし。

:どう変わりました?

:分からない!

:(笑)変わってないじゃん、それ。

:いま、かっこいいこと言いたかったけど、全然だ。ただ、どう変わったっていうか...いっこめの国立上がったときに、すげー緊張してて。はじまっちゃった、て。一ヶ月前くらいに完売してたの。意味が分かんない、と思って。なんでだ、と。全然知らないひとが興味本位で来たんだろうね、意味が分かんないこと俺がやるから。緊張してオネエ言葉になっちゃったの。それでなんだかんだあって、四回やったときに、自分のなかで、やれた、やった、と思って。俺、もっとボロボロになると思ったのに、なんかカタチになって、できちゃった、と。それが言葉に出てくるんだよね、落語やってるときに。

:ふぅん。

:やるまえの僕と、やったあと、いろんなところで高座やってるときの、自信というか、びくびくはしてるし緊張してるんだけど、でも、伝わり方は違うはずなんだよ、言葉でうまく言えないんだけど。やったことによって、絶対自分は変わったんだよ。

:それは自信でしょうね。でも兄さん、賞獲ってるじゃない? 賞獲ってるより国立の方が自信になった?

:なった。賞なんて、だって関係ないもん。兼好師匠に会ったのかな、NHK獲ったあとに。「早かったね」って言われて。俺が思ってたことと同じこと言われて。そうだよなあ、こっから先何年あんだよ俺、って。(古今亭)志ん輔師匠にも、「ああいう賞っていうのは、すぐに忘れた方がいいよ」って言われて。やっぱり先輩方って分かってくれてるんだ、と思った。獲った瞬間は、すべての賞は嬉しいけど、じゃあいま仲間とかお客さんが僕を観たときに、「あのひとはこれとこれとこれの賞を獲ってるひとだから、よーし、なにをやっても笑うぞ」って思ってくれないわけじゃん。もしその日つまんなかったら、「なんだ、宮治つまんないね」で終わるだけで。賞なんて、なんの価値もない...わけじゃないけど、きっかけにはなるけど、いろんな大きい仕事に行けるきっかけにはなるから、獲れないより獲ったほうがいいけど、それ引きずってたり心にあっても、なんの役にも立たないんだよね。むしろ重荷でしかないから。

:国立ってネタおろし(注:初演のこと)してたんでしたっけ?

:ネタおろししてた。でっかいの。

:それもあるんでしょうね。それがでかいんじゃないですか? 三百(人)入れるっていうのもそうだし、ネタおろしを三百の前でやるっていう自分の実験的なことが成功したっていうことが、やっぱ自信っちゅうことですよね。

:「居残り(佐平次)」とか、もうやってねえもんなあ。

:「居残り」とかやってたんですか。

:「居残り」とかやってた。あと「夢金」とかさ。

:国立年四埋めたら、もうあとは本多劇場しかない。

:うーん、もうあとなにしたらいいか分かんないよね。

:そうですよね、本多劇場行ったら、もうないですよね。

:ってゆーか、売れてる大師匠方って、みんなそうなわけじゃん。あとは一生落語しゃべっていくだけ、っていう。だから目標とかよりは、やることやったから、三年間で。あとは毎日毎日お客さんの前で一生懸命しゃべる、っていうその作業だよね。

:ある種兄さんの集大成だよね、二ツ目前期の。本多劇場ってもう。あとやることない(笑)。

:国立で陰惨な噺して、本多でキャッキャした宮治みせて、黒い部分と白い部分とふたつやりました。はい、じゃあ卒業! って。

:(笑)兄さんあと六年あるわけでしょ? どうすんの?

:わかんない。

:わかんないし、決めらんないですよね、流れあるし。一生懸命落語やる、講談やるしかないっちゅーか。一年くらいであっという間に出世しませんか、この業界。半年くらいで違う舞台立ってたりとか。だとすると、六年後って読めないですよね。

:読めない。俺ひどいことになってんじゃないかな? って想像もつくし。いま元気な師匠方だって、どうなるか分かんないじゃん。いろんなことがあるから。将来のこと考えて落語やらないほうがいいよね、たぶん。お金払ってきてくれるお客さんに、そのとき自分ができる一番いいものを出していけば、最終的に結果出る。運も重なってくるけどね。

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:俺も、兄さんと状況一緒とは言えないけど、(銀座)博品館(劇場)でやって(注:2016年7月26日神田松之丞独演会(其の四)"松之丞ひとり~夢成金")、やることないっちゅーか。で、こないだふと思ったのが、歌舞伎座行ったときに、ここで演りてえな、と思って。キャパ調べたら、千八百だったんですよ。六年後、千八百かあ、と思って。難しいけど、実現不可能に近いけど、六年後順調に頑張ってたとしたら、できるかもしれない。で、うちの師匠歌舞伎出身なんで(注:神田松鯉は講談師になる前、二代目中村歌門の弟子であった)、もしもうちの師匠生きてたら八十くらいだと思うんですよ(注:1942年生まれ)。ひょっとしたら、この舞台上がりてえかな、とか。

:うーん、それはいい親孝行だよね。

:そこで親孝行できたらな、ってくらいしかないですよね。キャパに関しては。あとは質で高めてくしかないっちゅーか。

:まっちゃんもね、客を集めてぐわっとやって、笑いもできるし人情ものもすごい、っていう評価があったとしても、さっき言ったみたいに、どっかで手を抜いた瞬間、ゼロになるじゃん。

:そうなんすよね。

:そう。でも人間いっかい疲れるときくるじゃん。

:疲れますよね。

:いままでぴんと張り詰めてたさ、いま一番張ってると思うのよ、まっちゃん。ずっとこうやってるんだけど、ぱん! ていう瞬間。このまま一生、そんな緊張感持ったままだと人間もダメになるし、いっかい緩むときがくると思うの。そんときに、どうなるかだよね。それが何年後にくるのか分からないし。ずっと引っ張りながらまっちゃんは行けるのかもしれないけど。疲れるとかもきそうかな、と。

:兄さん、いま疲れてる?

:いや、こういうの(注:本多劇場の公演)があると、また引っ張らなきゃと思うから。

:結局、こういうビッグイベントがあるたびに、そこに照準合わせてやる、ってかんじですよね、我々。それしかないというか。

:うん、そうね。やるしかないんだよね。

:俺、年季でいけば、兄さんと同時昇進なんだよね。

:このままいけば、二人でだよ。

:想像つかないですよね、六年後。いまの芸歴の半分くらい。

:なにが変わるんだろうね。

:俺、最近よく言われるのは、天狗になってる、って。全然なってないんだけど、兄さんもなってないし、目標全然違うじゃないですか。天狗にならないじゃないですか、別にそんないちいち。

:天狗になった・ならない、って、自分じゃ分かんないんだよ。

:えっ。

:あれはねえ、お客さんとか周りが決めるの。

:ああ、そうですか。

:俺、二ツ目になって、賞獲るじゃん?

:ええ。

:NHKとか獲って、ちょっと経ったくらいのときに、まったく同じ行動しているはずなんだけど、頭下げなかったとか、ある会で抽選会を前座さんに任せたとか。普通どおりなんだけど。だから、"実るほどこうべを垂れる稲穂"じゃないけど、なんかうまくいったときほど、頭を、その前よりさらに下げたら、前と同じなんですよ。

:なるほど。

:前と同じことをやってると、天狗になった、って言われるのよ。あれ、こわいよ。

:そうですよね、そっかー。そろそろ〆ようと思うんですけど、兄さんにとって、僕ってどういう存在なのかっていうのを。

:まっちゃん? いまのでしょ?

:いま。

:いま? いま、まっちゃんに関して。

:トータルでもいいけど。

:え?

:トータルでもいいよ。前座時代入れるとあれでしょ(笑)

:掛けるゼロいれちゃうよ! おまえがいま、百点満点中百点でも、掛けるゼロいれたらゼロになっちゃうから! 前座時代は消していいかな?

:(笑)いっかい消してください。

:なんだろう、まっちゃん出てきてくれたから、まっちゃんが出てきたことによって、あ、俺、マジでやんなきゃな、っていうふうに、やる気にさせてくれたよね。

:ああ、ほんとう? 嬉しい! それ嬉しい言葉。

:それまでは、個人的に頑張るっていう作業だったのが、はじめてひとをみて頑張んなきゃいけないな、っていうか。二ツ目になって、とんとん行ってたけど、こいつここまでやってんだから、俺、もっとやんなきゃいけないな、とか。はじめて、自分のなかだけで消化してたものを、ひとをみて、まっちゃんをみて、まっちゃんに負けちゃいけないんだ、もっとやんなきゃ、俺、香盤いっこ上なんだ、こいつに負けちゃだめだ、って思える。ライバルっていうとおこがましいけど。いま特に二人でやる会が増えてきたじゃん? これから先、俺が落ちない限りは、これ続いていくんだろうな、と思ったときに、もうなんか、いてくれてありがとうってかんじだよね。ここまで戦うひとがいまいるんだっていうか。

:嬉しい。

:このひとと一生戦っていくんだって思ってる、いまはね。六年後は分からないけど。

:講談と落語ってジャンルが違うのもよかったんですかねえ、結果。

:うーん。俺らのパッケージが多いのは、完全にそうだよね。講談で聴かせて、落語で、って。おまえの替えって、いまいないんだよ。でも落語界の替えはいっぱいいるから。俺が落ちないようにしなきゃいけなくて。まっちゃんのパートナーとして、どっか行くときのね。俺が落ちたら悔しいなあ、っていうのがあるから。もう、松之丞の横には宮治くんいますよ、って言いたいよね。

:ありがとうございます兄さん(笑)。成金について、最後。どう思ってます?

:うちの協会が落語界ひっくり返すために、奇跡的にすごいグループ作ってたな、っていうのは思う。こっから先もっと頑張んなきゃいけないけど。あと、全員が全員、すごいわけではない。これは成金メンバーも見るか。言っていいのか、これは?

:言っていいでしょ、兄さん。

:おまえも言え。じゃないと、俺だけが言ったみたい。

:ミートゥーよ。

:誰がどう、とかではなくね。全員が全員、この落語界でトップクラスにいくかといえば、そうではない。でも、十一人でいることによって、それぞれの役割が全部決まって、全部カラーが違くて、一緒にいることで、全員スキルが上がったんだよね。

:そうですね。

:誰一人落ちてないんだよ。ひとりひとりだったら、ここまでしか行けなかったものが、十一人いたことによって、十一人が全員自分のてっぺんだったところのレベルを、ばーん! ってあげてるの。だからすごいんだよね。

:馴れ合いじゃないんですよね。

:そうそうそう。全員が一番になりたいと思ってるし。あの(三遊亭)小笑兄さんですら、成金にいなかったら鯉八兄さんにくっついてへらへらしてただけだったと思うんだよ。その小笑兄さんも、こないだ漫談聴いたらめちゃくちゃ考えてるし、ちゃんとやってる。(柳亭)小痴楽兄さんにしても、前座のころから口調がいいし、落語はもうすごかったけど、漫談とかは弱かったよ。まくらもさ。うちらと一緒にいることで考え方とか作り方とか、ぜんぶ変わったはずなんだよ。

:変わってますねえ。

:だから、あの年齢であそこまでしゃべれたら、三十代四十代になったときに、計り知れないおそろしさあるな、と思ったり(注:小痴楽は現在27歳)。

:たしかに。

:みんな、すげー変わってるんだよ。十一人が十一人、刺激受けてさ。

:いい流れで変わってきてる。

:毎週やってるからって、毎週飲むわけじゃない。終わったら帰るし。いい関係だよね、お互い戦いながら、仲はいいっていうさ。成金みんなで一緒に遊ぶって、今度の旅行がはじめてだよね。

:そうだ、その話で〆ましょうか。成金で、全員集まって旅行行く、って機会なかったんで、兄さんがぜんぶセッティングしてくれて。どこでしたっけ。軽井沢でしたっけ?

:違うよ。

:どこ?

:鬼怒川だよ。真夏の一番暑いときに鬼怒川行くんだよ。

:そこで芸のこといっかい忘れて。

:どうせしゃべるだろう。

:しゃべるけど、いっかい空気抜こうっていうね。ぴんと張ってるからね。

:全員で行って、写真撮って、何十年後かにうちらがどん!っといってたら、「こんなときあったぜ、全員で旅行いったな」っていう、いっこくらい思い出作りたかった。

:そうですねー。前に言ってた夢で、新宿末廣亭で数十年後とか正月に出たときに、成金メンバーが囲むようにいるっていうのが、いいなあと。

:もうちょっと、若手真打くらいのときにやりたいよね。成金だけで新宿夜とかさ。そんときに、俺、言うよ。小笑ちゃんだけはトリとらせないよ。十一人いるでしょ、十日間でしょ。小笑ちゃんはダメ。小笑ちゃんは、ずっとサラ。

:十一人いるからなあ。永遠のリザーバーなんだよなあ。

:小笑ちゃんは、もぎり!

:(笑)兄さん、ありがとうございました。

:あと三時間くらいしゃべろう!


※宮治兄さん今年の天王山

宮治本舗 夏スペシャル! 月またぎ二夜
其の一「夏の夜の挑戦」2016年6月29日(水)桂宮治独演会in国立演芸場
其の二「夏の夜の夢特番」2016年7月5日(火)桂宮治爆笑三昧劇場in本多劇場

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※松之丞今年の天王山

2016年7月26日(火)神田松之丞独演会(其の四)"松之丞ひとり~夢成金" こちら

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